それぞれの時代には時代ごとの美しさがあるため、眉毛・まつ毛・うぶ毛のお手入れ方法も変化を遂げてきたそう。そこには、細部にまでこだわる日本女性ならではの美意識があったから! あくなき美への探求心を年表形式で解説します!
眉毛
女性の眉化粧が歴史書に
初めて登場
今から約1300年前の奈良時代、和銅12年(712)に成立した日本最古の歴史書「古事記」に、若い女性が眉を描いていたという記述があることから、眉・まつ毛・うぶ毛のうち、眉化粧の歴史が最も古いと言えるでしょう。
眉毛
眉毛ケアは
毛抜き一本の時代
平安時代になると、貴族の女性は毛抜きで眉を抜き去り、新たに描く化粧をしていました。『源氏物語』には、のちに光源氏の妻になる紫の君が、10歳前後で眉化粧をしたことが記されています。当時はできの良い毛抜きが少なかったため、さぞかし痛い思いをしながら眉を抜いたことでしょう。
眉毛
カミソリが登場!
毛抜きとともに
化粧道具に仲間入り
顔や襟足(えりあし)をそり、眉をそり落とすのに、への字型のカミソリを使うようになりました。
眉毛
眉のそりあとに
美しさを見出す時代
① 公家や上流武家の女性は決められた年齢になるとお歯黒をつけ、眉をそり落とし、儀式の際には額の上の方に別の眉を描きました。
② 庶民の女性の場合、結婚するとお歯黒をつけ、子どもができると眉をそり落しました。
庶民の場合は、眉の有り無しで子持ちかどうかが一目でわかるのが、江戸時代の眉化粧の約束事でした。現代の美意識では異様に感じますが、当時の女性は眉のそりあとに美しさを見出していたのも事実です。
(写真A)「千代田之大奥 元旦二度目之御飯」国立国会図書館ウェブサイトより
(写真B)「名所風景美人十二相」くもん子ども浮世絵ミュージアム所蔵
眉毛
眉と目の間が狭いのは
品がない!
江戸時代を代表する美容書『都風俗化粧伝』では、眉と目の間が狭い人は眉毛の下の方を少しそり上げるようにすすめていました。眉と目の間は広い方が美人だったのです。
まつ毛
浮世絵美人は目が細い!
浮世絵に描かれた美人をよく見ると、目の大きさそのものが顔に対して小さく、一重まぶたが一般的です。まつ毛に関しては、描かれていても毛の流れは上下共に、目の内側を向いていて、決して目を大きく見せようとはしていません。
うぶ毛
生え際にこだわる
美意識
江戸時代の美人はうりざね顔(やや面長)が基本。『都風俗化粧伝』には、丸い顔を長く見せるために、「額をそり上げるべし」とあります。きれいにみえるように顔のバランスを考えて、生え際のうぶ毛や髪を少しそっていたのです。当時は前髪をアップにして額が丸見えでしたから、なおさら生え際にこだわったのでしょう。
(写真)「江戸名所百人美女 芝神明前」国立国会図書館ウェブサイトより
まつ毛
大きい目は美人の
象徴では
なかった時代
江戸時代の美容書にはまつ毛のケアに関する記述が出てきません。ということは、まつ毛は美しさを左右する要素ではなかったのでしょう。また、目が大きすぎるのは美人ではありませんでした。『都風俗化粧伝』には目について「りんと強きがよし」と記されていますが、同時に「あまり大き過ぎたるは見苦し」ともあります。 大きすぎる目の対処法に、「目を伏せぎみにして小さく見せましょう」とあることからも、程よい大きさの目がよかったことがわかります。
(写真)「当世好物八契」国立国会図書館ウェブサイトより
うぶ毛
肌の白さが
美人の第一条件!!
「色の白いは七難隠す」といわれた江戸時代、肌の白さは美人の第一条件でした。当時の肌の美意識は、白く透き通るような顔色で、真珠のようにきめ細かくツヤのある肌でした。そのために重要なのがおしろい化粧だったのです。
うぶ毛
おしろいのノリを良くする
手法として
うぶ毛そりは常識
おしろいのノリをよくするため、女性たちがカミソリで顔や襟足のうぶ毛をそっている様子は、浮世絵や版本にもよく描かれています。顔や首をそるのは、化粧の前段階のケアとし、日常化していたと考えられます。
眉毛
眉剃りは撤退し、
自然な眉を生かす方向へ
日本の伝統化粧に転機が訪れたのは、明治維新以降です。西洋文化を積極的に受け入れる過程で、外国人に不評だった眉剃りは衰退し、化粧は少しずつ洋風へと変わっていきます。
眉毛
若い女性に自然な太眉が流行!
目の美意識も洋風へと変化し始める
当時のブロマイド「美人絵はがき」に登場する有名芸妓(げいぎ)の万龍や、素人対象の美人コンテストの優勝者末広ヒロ子は、太眉、二重まぶたでぽっちゃりした近代的美人です。
(写真)美人芸妓 万龍
まつ毛
まつ毛が重要視されるきざし
美容書に、目の美しさは「目・まつ毛・眉毛」の3つの美が重なり合っているという記述がみられるようになります。ここにきて、やっと日本でも目の化粧の要素としてまつ毛が注目されてきました。
うぶ毛
生え際の美意識はまだまだ続く
明治末期の美容書にも、富士額にするために、生え際のうぶ毛をそり、その跡にまゆずみを薄く敷いておくのがよいと書かれています。
眉毛
まつ毛
眉を細く剃り、
こめかみまで延ばす
ハリウッド女優風メイクが
流行!!
大正時代に入ると、欧米ではマスカラが使われるようになります。そして大正末期、モダンガールたちは、アイシャドウやアイラインをつけ、眉を細く剃り、こめかみまで延ばすといった、ハリウッド女優をまねた洋風メイクにチャレンジしました。モダンな洋風化粧は、洋服に合う化粧としておしゃれの最先端に踊り出ます。
(写真)『モダン化粧室』昭和6年 国立国会図書館ウェブサイトより
まつ毛
目は大きい方が
良いという美意識
大正末期から昭和初期の美容記事には「目をパッチリ見せる」ためのまつ毛の化粧法が記されています。目は大きい方がよいという美意識がみられるようになり、同時にマスカラやビューラー、つけまつ毛が紹介され始めます。
(写真)『モダン化粧室』昭和6年 国立国会図書館ウェブサイトより
眉毛
まつ毛
立体的な顔立ちへ
憧れを抱き始める
ベースメイク重視で平面的な日本の伝統化粧に対して、欧米の化粧はポイントメイク品を用いて、顔に陰影をつけて立体感にみせるのが特徴です。現代の日本人女性が持っている立体感のある顔立ちへの憧れは、この時期に芽生えたと言えるでしょう。
うぶ毛
お化粧映えのためには
顔そりが重要!
昭和初期の美容書によると、お化粧映えさせるにはカミソリをあてることが必要とあります。顔をそるのは入浴後が一番。でも普通の場合には、熱いタオルでよく蒸して、皮膚を柔らかくしてからがよいとも。 そる時には石鹸をつけ、終わると化粧水をつけるなど、肌に負担をかけないケアにも気を配るようになります。
眉毛
まつ毛
戦時体制に突入。
洋風メイクの普及は一時中断
アイメイクの流行に待ったをかけたのが戦争でした。日中戦争がはじまると「健康美」「簡素美」が求められ、粉おしろいや頬紅、口紅程度のシンプルな化粧が推奨されます。
眉毛
まつ毛
眉の形は
流行や世相を反映して
太くなったり
細くなったり
戦前にアイメイクをしていたのは流行の先端層に限られており、一般女性にとってはまだまだ日常的ではありませんでした。戦後になってから、一般の女性たちにも流行として広まり始め、アイメイク全般に関する記事が、新聞や雑誌でも少しずつ増えていきます。眉の形は流行や世相を反映し、太くなったり細くなったりと変化するようになります。
眉毛
まつ毛
アメリカ文化の流入で化粧も一気に洋風化へ
昭和20年代、日本にはアメリカ軍が多く駐留した影響により、アメリカ文化が流入しました。着物から洋装へとファションが変わることで、化粧も欧米風が当たり前になります。
うぶ毛
むだ毛を剃る練習!?
うぶ毛そりであか抜け肌に!
昭和25年(1950)の『美容と作法』には、「桃の肌のようにうぶ毛がいっぱいに生えていると、どんなに化粧をしたところであか抜けない」とあります。そのために必要なのが「むだ毛をそる練習」でした。本には、顔そりの準備から注意点、順序、カミソリのとぎ方、顔そり後のケアまで事細かに紹介されています。洋風化粧が主流になっても、うぶ毛のケアは美容の一環として、ずっと続いていたことがわかります。
眉毛
映画女優の
アイメイクが
大流行!
昭和30年代、大ヒットした映画『ローマの休日』の主役オードリー・ヘップバーンをまねた、角度をつけた太い眉が流行します。
(写真)『それいゆ』表紙 昭和31年 中原淳一画
眉毛
まつ毛
アイメイクブーム到来
きっかけは、昭和42年(1967)のファッションモデル、ツイッギーの来日です。彼女のトレードマークともいえるミニスカートとともに、ダブルラインのアイシャドウ、つけまつ毛やマスカラを重ねたアイメイクが注目され、日本でもアイメイクがブレイクしました。 その一方で、目を強調するため、眉は細くなりました。
(写真)ツウィギーのアイメイク『女性セブン』昭和42年6月28日号より
眉毛
まつ毛
ナチュラルメイクの流行から太眉ブームに!
女性の地位が向上した昭和50年代から昭和末期は、ナチュラルメイクが提唱された時期でした。つけまつ毛はすたれ、アイシャドウもナチュラルなブラウン系が流行。眉は手入れをしない自然のままか、太く濃い極太(ごくぶと)眉に。太くりりしい眉は、パワフルな女性の象徴だったのです。
眉毛
まつ毛
コギャルメイクが注目を浴びる
ナチュラルメイクの流行が一段落して、再び目のまわりの化粧の比重が高まります。平成8年(1996)頃からはコギャルの間で、細眉にマスカラやアイライナーで目元を強調するメイクがブレイク!眉の形をくりぬいた眉テンプレートが販売され、まつ毛パーマやまつ毛エクステが流行し始めます。
同時期にあった小顔ブームの影響で、顔のパーツのひとつである目を大きくみせて相対的に顔を小さくみせようとしたことも、目の化粧が盛んになった理由のひとつです。
(写真)アフロ
眉毛
まつ毛
新しい世紀の始まりは
「目ヂカラ」
そして「引き算メイク」へ
「目ヂカラ」という言葉が注目され始めたのは平成12年(2000)。つけまつ毛、マスカラの塗り重ね、アイシャドウやアイライナーで目を囲む「デカ目」メイクなど、アイメイクに重点を置く盛りメイクが、趣向を変えながら10年余り続きました。その後は、適度に強弱をつけバランスをとる「引き算メイク」が注目を浴び、ナチュラルメイクの傾向に。眉については、次第に極端な細眉はすたれ、ナチュラルに整えた形になりました。
(写真A)アフロ
(写真B)PIXTA Ushico / PIXTA(ピクスタ)
著述業/化粧文化研究家
山村博美
東京女子大学文理学部英米文学科卒業。化粧品会社の研究所で日本と欧米の化粧文化史、結髪史の研究に従事したのちフリーになり、美容関連の企画に多く携わる。
2016年、古代から現代までの化粧の変遷を通史でたどる『化粧の日本史―美意識の移りかわり』(吉川弘文館)を上梓。本書はこれまでにテレビや新聞など20以上のメディアで紹介される。ほかに共著として『世界の櫛』『浮世絵美人くらべ』『江戸文化の考古学』など。
東京女子大学文理学部英米文学科卒業。化粧品会社の研究所で日本と欧米の化粧文化史、結髪史の研究に従事したのちフリーになり、美容関連の企画に多く携わる。
2016年、古代から現代までの化粧の変遷を通史でたどる『化粧の日本史―美意識の移りかわり』(吉川弘文館)を上梓。本書はこれまでにテレビや新聞など20以上のメディアで紹介される。ほかに共著として『世界の櫛』『浮世絵美人くらべ』『江戸文化の考古学』など。
まつ毛
今のトレンドまつ毛は、自まつ毛のように自然なボリュームと長さのナチュラルなスタイル。まつ毛美容液というケアアイテムもかなり充実してきたうえ、マスカラやマスカラ下地にも美容成分が配合されているので、まつ毛を育てる、いわゆる“まつ育”はすでに立派な定番ケアに。自分のまつ毛はあくまでも強くしなやかに育てるというセルフケアを行いながら、目的に合わせてエクステンションやメイクアップでバージョンアップするのも良し。ライフスタイルや自分のまつ毛状態に最適なアプローチが選べる時代です。
眉毛
時代の流れやトレンドを最も反映するのが眉毛というパーツですが、それだけ重要にも関わらず、自分に合った眉毛に整えられている人は非常に少ないというのが実情。「上手く描けない」「自分に合う形が分からない」という声は多く、まさにトップクラスに君臨する悩みです。コレはもう自分だけのテクニックでは“重要な一線”を越えることは不可能。一度、サロンなどで形を整えてもらう、メイク教室で自分に一番似合う眉の描き方を教えてもらう、といった“プロの手”を借りるのがベスト。必ずアップデートされた新しい自分に出逢えるはずです!
うぶ毛
日本人が昔からうぶ毛を気にする理由のひとつは、やはり毛が黒いからにほかなりません。毛が全体的に明るい外国人モデルなどは、顔のうぶ毛はほぼ生やしっぱなし。それが逆に“桃”のような柔らかさやピュアさを演出してくれるから、何とも羨ましい限りです。日本人はうぶ毛が残っているだけで、どんなに肌自体が明るく美しくても「くすんでいる」と捉えられがちなので、うぶ毛はオフするのが得策。正しくシェービングすれば、不要な角質もオフできるので肌のターンオーバーにも効果的ですが、顔全体を自分でそるのは至難の業。理容師免許をもつ顔剃りのプロに身を委ねることもおすすめです。
ビューティジャーナリスト
前田美保
「試してみないと分からない」をモットーにさまざまな美容体験を伝えている
国際基督教大学を卒業後、大手広告会社に入社。退社後、美容ライターとして活動を開始。
最新の美容事情や化粧品の製品情報に精通しながら、ファッションや演劇、ゲーム、マンガにいたるまで、
幅広い視点から“ビューティ”を分析するのが得意。
各媒体でスキンケアやメイクページといった王道美容記事から、読み物としての美容記事まで数多く執筆。
美容やライティングをテーマに講演を行うことや、商品企画やマーケティングのアドバイザーとしても参画することも。
国際基督教大学を卒業後、大手広告会社に入社。退社後、美容ライターとして活動を開始。
最新の美容事情や化粧品の製品情報に精通しながら、ファッションや演劇、ゲーム、マンガにいたるまで、
幅広い視点から“ビューティ”を分析するのが得意。
各媒体でスキンケアやメイクページといった王道美容記事から、読み物としての美容記事まで数多く執筆。
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世界の女性の美容ランキング調査
意外だけど日本人ならではのあるある回答が続出!
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「毛のケアは完璧♡」と思っているのは自分だけかも……。恥ずかしい思いをする前に診断を!
ビューティージャーナリスト
前田美保さんによるコラム
10年後に後悔しないための美断捨離
ビューティージャーナリスト前田美保さんによる、30代以上の“美”に悩める女性たちに贈るメッセージコラム公開!
美しさの基準は時代によって違いますが、いつの時代も女性はきれいでありたいと思うもの。そんな気持ちを持って日本人女性は、古来から化粧を進化させてきました。
そのきめ細やかな化粧意識は、独自の眉化粧や、額の生え際から襟足までこだわったうぶ毛のケアにも反映されています。ベースメイクを重視する美意識は時代を経ても変わらず、うぶ毛をそることは、戦後になっても続けられてきました。女性たちの心には、江戸時代の肌の美意識と同じ「真珠のような肌」に憧れる気持ちが今もあるのでしょう。
その一方で、近代になって大きく変わったのが目元の化粧です。自分の眉を活かして、まつ毛を強調する立体感のあるアイメイクを、日本人女性は見事に自分のものにしました。世界の流行のよいところを取り込む柔軟な探究心を持って、私たちはこれからも美の可能性を広げていくことでしょう。